ゆるふわふぢげたんカフェブログ

森の小さなカフェの常連の英語講師(藤本亮太郎)によるブログです。お店の日常をあげているインスタもよろしくおねがいします。@koshinkokunihon

今日は『地下鉄道』を読んだ.

今日は家労(無給)とコヒをし,アサリから生まれたカニを飼育し始めるも夕方には死んだ.

 

労がひと段落したところで残っていた『地下鉄道』を読んだ.

 

『地下鉄道』(コルソン・ホワイトヘッド谷崎由依訳,早川書房

2016年の作品.1830年頃の南部農園の黒人奴隷少女の逃亡劇を綴ったフィクション.「地下鉄道」とは当時実在していた秘密結社の名称で,黒人奴隷の逃亡を水面下で援助していた.

 

「地下鉄道」というと想像力がかきたてられファンタジックな妄想をしてしまうが,史実はもっとドライで味気ない.「鉄道」とは単なる比喩であり,実際に地下に秘密の汽車を走らせていたという歴史はない.「車掌」とは逃亡に手を貸す奴隷廃止論者(アボリショニストと呼ばれる白人や自由黒人)のこと.「駅」と呼ばれる隠れ家に逃亡奴隷を匿い,極秘の連絡網である「線路」に沿って彼らを北へ北へと誘導していく.実際に使った交通手段は足と馬車だったのだろう.

 

この作品は「地下鉄道」を文字通り地下に網目状に広がる鉄道として描いている.史実に背く筆者の大胆な想像力は,フィクションの強さを感じさせる.主人公の黒人少女コーラは,まさにこの鉄道に乗りこんで自由への旅路を進んでいく.

「『この国がどんなものか知りたいなら,わたしはつねに言うさ,鉄道に乗らなければならないと。列車が走るあいだ外を見ておくがいい。アメリカの真の顔がわかるだろう』」

コーラがはじめて乗った鉄道で駅長ランブリーが放ったこのセリフは,物語を通る一本の筋書きを暗示している.もちろん地下を走る鉄道から外を見て実際に何かが見えるはずがない.右も左も前も後も全て暗闇なのだから.しかしコーラは鉄道を乗り継ぎ,運命に導かれていくなかで,まさにアメリカの様々な顔を目撃する.

 

全編を通してコーラは逃げ続けるが,途中から何から逃げているのか,そして何を求めて逃げているのか,形がどんどんぼやけていくようだった.それはコーラが自らの肌で外の世界を感じ,文字を覚えて知識をつけていく過程と連動しているように思う.

 

奴隷狩りのリッジウェイは,物語が進むにつれ,ひとりの奴隷狩りから徐々にシンボルめいていく.

「『劣等民族の向上に努めよ。向上できなければ従えよ。従えられなければ撲滅せよ。それが神に定められたおれたちの天命––アメリカの至上命令だ』」

 

また,コーラが思い描いていた「自由」も逃亡,そして度重なる束縛を経験する中でどんどん変容していくようだった.

 

全ての束縛から逃れた暮らしは柵の中から夢見た幻想だ.たとえジョージアの農園から何百何千マイルと離れたとしても,心理的な枷は決して外れない.そしてその心理的な枷は,「恐れ」という形で白人をも巣食っていた.両人種とも枷から逃れようと或いは逃げ,或いは捕らえる.長い時間が負の歴史を精算したとき,「自由」は最も純度の高い形で人間を包むかもしれない.しかし,果たしてそれが可能だろうか.結局人間は負の過ちを繰り返すのだから.

 

彼女が求める自由の形はどんなものか.終着駅のない線路を辿り抜けた先,彼女は何を掴んだだろう.Amazonプライムで映像化されているそうだ.見てみよう.

 

今日は受験勉強をしなかった.